防衛省による名護市に対する国家的パワハラを糾弾
する声明
浦島悦子(沖縄)、加賀谷いそみ(秋田県)、松井裕子(沖縄島)、
鈴木雅子(沖縄県)、廣崎リュウ(山口県)、奥田恭子(愛媛県)、
弥永健一(埼玉県)、小牧みどり(神奈川県)、井上澄夫(埼玉県)〔順不同〕
2010年12月31日
防衛省が名護市に対し2009、2010両年度の再編交付金(約16億8千万円)を交付しないと決めた、その法的根拠は「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令」4条です。
同特措法施行令第4条(再編交付金の交付)の最後にこうあります。
〈防衛大臣は、駐留軍等の再編の実施に向けた措置の進捗に支障が生じた場合において、年度交付限度額を定めることが適当でないと認めるときは、年度交付限度額を減額し、又は零とすることができる。〉
ここで仔細に検討すべきは「駐留軍等の再編の進捗に支障が生じた場合」という部分です。防衛省は稲嶺進名護市長が「普天間基地移設」の受け入れを拒否していることによって米軍再編に支障が生じていると考えています。しかし稲嶺市長は今年1月、「辺野古の海に基地をつくらせない」ことを公約して市長選で当選 しました。それゆえ彼は名護市民に公約したことを守っています。それは自治体の長としてまったく当然のことであり、地方自治のあり方として非の打ちどころのない健全さを示すものです。
ですから、政府・防衛省が主張する「支障」は、国と名護市の意見の違いから生じているのであって、稲嶺名護市長が何か違法な行為をおこなっているから起きて いるのではありません。今や地方分権は市民社会の重要な構成原理の一つですが、地方分権における国と地方自治体との関係は「国と地方自治体があくまで対 等・平等である」ということです。
したがって国が自治体を説得できなければ、意見が合わないということであり、自治体が間違っているとか、まして国が正しいということにはなりません。
防衛省・沖縄防衛局は09年度の繰り越し分(6事業6億分)について、これまで名護市と4カ月にわたり事前調整してきたにもかかわらず、突如、交付しない と決めました。防衛省はまさに後出しで、「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令」第4条を根拠に不交付を通知したのですが、その理由についてまったく説明責任を果たしていません。
しかも名護市の翻意に備え、2011年度予算案に約10億円を計上したというのですから、防衛省の見え透いた金権政治にはあきれるほかありません。12月29日付『琉球新報』の社説は憤激してこうのべています。
〈移設を受け入れれば交付を検討するという姿勢は、目の前にニンジンをぶら下げて馬を走らせるやり方にほかならない。沖縄県民は「馬」ではない。〉
さて、問題はなぜ「支障」が生じたのかという問題ですが、その理由は簡単明瞭です。
沖縄県民がその総意として「県内移設反対(拒否)」をこれまで繰り返し、繰り返し表明してきたにもかかわらず、日本政府がひたすら米国政府の言いなりに新海 兵隊基地建設を名護市辺野古に押しつけようとしているからです。鳩山前首相は「最低でも県外」と公約しながら沖縄県民を裏切りました。それは国家の最高責 任者による隠しようのない犯罪でした。しかもその国家犯罪がいまだ裁かれていないにもかかわらず、菅首相は鳩山前首相の新米軍基地建設計画(5月28日の 日米共同声明の実行)を無条件に引き継ぎました。
つまり「支障」は政府・防衛省が作り出したのですが、それを取り除くことはきわめて容易なことです。政府・防衛省が沖縄県民の総意に従い、「辺野古移設」 を取りやめればいい、それだけのことなのです。米軍再編に「支障が生じた場合において」なされるべきは、「支障」の原因者である政府・防衛省が深く反省し て自ら「支障」を取り除くことです。
それにもかかわらず、政府・防衛省はまるで名護市の不当・非道な姿勢による被害者であるかのように装い、腹立ち紛れに再編交付金を止めて「辺野古移設」を呑み込ませようとしています。
それは国家権力による最大級の政治的イヤガラセ(パワー・ハラスメント)です。その余りに幼稚な暴戻ぶりに沖縄のみならず、全国、いや海外からも批判が集中するのは当然のことです。